透析中の急変・心肺停止への対応|即時返血とBLS(胸骨圧迫・バッグバルブマスク・AED)・役割分担

透析中の急変とBLSの基本 透析の基礎知識

※本記事はPRを含みます。

透析の基礎知識|急変対応

透析中の急変は、頻繁に起こるものではありません。だからこそ、いざというときに体が動くよう、事前に流れを頭に入れておくことが大切です。この記事では、透析中に患者さんが心停止を疑う状態になったときの対応を、透析装置の即時返血と、一次救命処置(BLS)の胸骨圧迫・バッグバルブマスク・AED、医師による二次救命処置(アドレナリンの投与など)、チームの役割分担までまとめました。

大切なお願い

この記事は、日本蘇生協議会(JRC)の蘇生ガイドライン2025などの公開情報と、透析室で働いてきた経験をもとにした学習用のまとめです。実際の対応は、必ず所属施設の急変時マニュアルと医師の指示に従ってください。胸骨圧迫やバッグバルブマスクの手技は、BLSやICLSなどの講習会で、実際に体を動かして身につけておくことをおすすめします。

透析中の急変にはどんなものがあるか

透析中に起こりうる急な変化には、軽いものから重いものまであります。

程度 例 まず行うこと
軽い 血圧低下、気分不良、あくび、足のつり 除水を止める、足を上げる、医師への報告
中程度 意識がぼんやりする、胸の痛み、不整脈、けいれん 医師を呼ぶ、モニター装着、返血の準備
重い 意識レベルの低下、呼吸の停止、心肺停止 応援を呼び、BLSを開始、即時返血

透析患者さんは、高カリウム血症による不整脈や、心臓病の合併が多く、心停止のリスクが一般の方より高いと言われています。透析中だけでなく、透析前の待合室や、長い休みの明け(週末をはさんだ透析日)にも注意が必要です。

心停止を疑ったときの流れ

透析中に心停止を疑ったときの対応の流れ
図:透析中に心停止を疑ったときの流れ(一例)

大切なのは、胸骨圧迫を最優先にして、そのほかの作業は人を集めて並行して行うことです。返血の操作や物品の準備のために、胸骨圧迫の開始が遅れないようにします。

ステップ1:反応の確認と応援の要請

肩をたたきながら大きな声で呼びかけ、反応を確かめます。反応がない、またはおかしいと感じたら、その場で大声を出して周りのスタッフを集め、次のことを頼みます。

  • 医師を呼ぶ(院内の緊急コール、クリニックなら119番通報も)
  • AEDと救急カートを持ってくる
  • 背板(バックボード)を持ってくる

透析室では周りにスタッフがいることが多いので、「〇〇さん、AEDをお願いします」のように、名前を呼んで具体的に頼むと、指示が伝わりやすくなります。

ステップ2:呼吸と脈の確認

医療従事者は、胸と腹部の動きを見て呼吸を確認しながら、首の横(頸動脈)で脈を確かめます。確認は10秒以内で行います。

  • 普段どおりの呼吸がない、または脈が確実に触れない場合は、すぐに胸骨圧迫を始めます
  • しゃくりあげるような不規則な呼吸(死戦期呼吸)は、心停止のサインです。「呼吸がある」と判断せず、胸骨圧迫を始めます
  • 判断に迷う場合も、胸骨圧迫を始めます。JRC蘇生ガイドライン2025では、心停止でなかった場合でも胸骨圧迫による傷害のリスクは低く、ためらわずに始めるべきとされています

ステップ3:胸骨圧迫(心臓マッサージ)

押す場所

胸の真ん中(胸骨の下半分)。手のひらの付け根を当て、もう一方の手を重ねます。

深さ

胸が約5cm沈むように押します。6cmを超えないようにします。

テンポ

1分間に100〜120回。押したあとは、胸が元の高さに戻るまで力を抜きます。

中断を最小限に

人工呼吸やAEDの解析などで止める時間は、できるだけ短くします(10秒以内が目安)。

透析室ならではの注意点

  • 背板を入れる:透析ベッドやリクライニングチェアは柔らかく、そのままでは圧迫の力が逃げてしまいます。背板を入れるか、チェアの場合は背もたれを倒して平らにします
  • ベッドの高さと足台:圧迫する人の腕がまっすぐ伸びる高さに合わせ、届かない場合は足台を使います
  • 交代は2分ごとが目安:圧迫する人は疲れて浅くなりやすいので、2分ごとを目安に交代します。交代の間も中断は最小限にします
  • 穿刺針と回路に注意:圧迫や体の移動で針が抜けないよう、シャント側の腕と回路を押さえる人を決めておきます

ステップ4:即時返血と回路の扱い(CEの役割)

胸骨圧迫が始まったら、CEは並行して透析装置と回路の対応を行います。胸骨圧迫を止めて返血を待つことはしません。

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除水を止める

まず除水(限外濾過)を止め、これ以上体から水分を引かないようにします。

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即時返血を行う

回路の中には、200mL前後の血液が入っています。装置の返血機能や生理食塩液を使って、回路内の血液をすみやかに患者さんの体に戻します。装置の機種によって返血の操作や機能の名前が違うので、自分の施設の装置での操作手順を、普段から確認しておくことが大切です。

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針と回路の扱いは施設の手順で

返血したあとの穿刺針を、薬剤投与のための静脈路として残すのか、抜針するのかは、施設の手順と医師の指示に従います。心肺蘇生中は、新たに静脈路を確保するのが難しいこともあるため、事前に施設内で決めておくと、その場で迷わずに済みます。

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記録を残す

返血した時刻、除水量、透析の経過時間、直前の血圧や静脈圧などは、その後の治療や原因を考えるうえで大切な情報です。落ち着いたら必ず記録します。

ステップ5:人工呼吸とバッグバルブマスク(アンビューバッグ)

医療機関では、口と口での人工呼吸ではなく、バッグバルブマスク(BVM)を使います。「アンビューバッグ」は商品名に由来する呼び方で、同じものを指すことが多いです。

  • 30:2で行う:胸骨圧迫30回ごとに、人工呼吸を2回行います
  • 1回約1秒、胸が上がる程度:バッグを約1秒かけて押し、胸が軽く上がるのを確認します。勢いよく大量に送ると、胃に空気が入って嘔吐の原因になります
  • 気道を確保する:頭を後ろに傾け、あご先を持ち上げて(頭部後屈あご先挙上)、空気の通り道を作ります
  • 酸素をつなぐ:酸素の供給源とリザーバーバッグをつなぎ、高い濃度の酸素を送ります

マスクの持ち方(EC法)

片手の親指と人差し指で「C」の字を作ってマスクを顔に押し当て、残りの3本の指で「E」の字のように下あごを持ち上げます。1人でマスクの密着とバッグの操作を両方行うのは難しいため、人手がある場合は、1人が両手でマスクを密着させ、もう1人がバッグを押す2人法の方が確実です。

医師が気管挿管などの高度な気道確保を行ったあとは、胸骨圧迫を止めずに、人工呼吸を一定の間隔で続ける方法に切り替わります。

ステップ6:AEDの使用

  • AEDが届いたら、すぐに電源を入れ、音声の指示に従います
  • 電極パッドは、右の胸の上部と、左の脇腹の下あたりに、素肌に直接貼ります。JRC蘇生ガイドライン2025では、適切な位置の素肌に貼れれば、服をすべて脱がせる必要はないとされています
  • 心電図の解析中と電気ショックのときは、全員が患者さんから離れます。透析の回路や装置にも触れないよう声をかけます
  • 電気ショックのあとは、すぐに胸骨圧迫を再開します。AEDは約2分ごとに解析を繰り返します
  • ボタンを押さなくても自動で電気ショックを行う機種(オートショックAED)もあるので、音声の指示をよく聞きます
  • ペースメーカなどの植込み機器がある場合は、その膨らみの上を避けてパッドを貼ります

ステップ7:二次救命処置(医師による治療)

医師が到着したら、心電図の波形を見ながら、電気ショックが効く状態(心室細動など)か、効かない状態(心静止など)かを判断して、治療を進めます。

アドレナリン

通常は1mgを静脈から投与し、3〜5分ごとに繰り返します。電気ショックが効かない波形では、できるだけ早く投与します。投与は医師の指示のもとで行い、投与した時刻を必ず記録します。

原因の検索

透析患者さんでは、高カリウム血症、出血、低酸素、心筋梗塞など、治療できる原因がないかを並行して探します。直前の採血結果や透析の経過が手がかりになります。

薬剤の準備や投与をどの職種が担当するかは、法令と施設のルールで決まっています。臨床工学技士は、装置と回路の対応、記録、物品の準備など、自分の職種で担える役割を事前に確認しておきましょう。

チームの役割分担

急変時は、誰が何をするかをはっきりさせることで、動きが大きく変わります。人数が少ない施設では1人が複数の役割を兼ねることになるので、事前に決めておくことが特に大切です。

役割 主な仕事 担当の一例
リーダー 全体を見て指示を出す。自分では手技をせず、状況の把握に集中する 医師(到着までは先に来た看護師やCE)
胸骨圧迫 絶え間なく胸骨圧迫を行う。2分ごとを目安に交代 2〜3人で交代
気道・換気 バッグバルブマスクで人工呼吸、酸素の準備 看護師・医師
AED・モニター AEDの操作、心電図モニターの装着 看護師・CE
装置・回路 除水停止、即時返血、針と回路の管理 CE
薬剤・静脈路 医師の指示で薬剤の準備と投与 看護師(医師の指示のもと)
記録 時刻、行った処置、薬剤、電気ショックの回数を記録 手の空いたスタッフ
連絡・周囲 救急車の要請、家族への連絡、ほかの患者さんへの配慮 受付・事務のスタッフも

ほかの患者さんも透析を受けている最中なので、急変対応に人が集まっている間も、残りの患者さんの観察を誰が担当するのかを決めておくことも大切です。

たく

現場から見た実感

急変は、軽いものから意識レベルの低下や心肺停止のような重いものまでありますが、頻繁に起こるものではありません。特に外来の患者さんが中心の病院やクリニックでは、急変に対応する回数そのものが少ないので、いざというときに慌てないよう、事前に知識として入れておく必要があります。ところが、急変時の対応をきちんと教えていない施設も少なくありません。だからこそ、施設の勉強会を待つのではなく、自分からBLSの講習を受けたり、装置の返血操作を普段から確認したりしておくことが大切だと感じています。

普段からできる備え

  • 物品の場所を確認する:AED、救急カート、背板、バッグバルブマスク、吸引器の置き場所を、全員が言えるようにしておく
  • 救急カートの定期点検:薬剤の期限、バッグバルブマスクの部品、酸素ボンベの残量を定期的に確認する
  • 装置の返血操作を練習する:使っている透析装置での返血の操作を、実際の手順どおりに確認しておく
  • シミュレーション訓練:役割分担を決めて、透析中の急変を想定した訓練を定期的に行う
  • 講習会を受ける:BLSやICLS(日本救急医学会の二次救命処置コース)などの講習で、手技を体で覚える

透析室の1日の流れと、トラブル・急変への備えについては透析室で働く臨床工学技士の1日、透析中の合併症は透析技術認定士の無料問題でも確認できます。

透析患者さんの心停止を防ぐための観察

心停止への対応と同じくらい大切なのが、その前に起こる変化に早く気づくことです。透析室では、次のような場面に特に注意します。

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週明け(中2日あけ)の透析

透析の間隔が空く週の最初の透析は、カリウムや体重の増え方が大きくなりやすく、不整脈や血圧低下が起こりやすいタイミングです。前回からの体重増加と、検査結果の確認を丁寧に行います。

2

高カリウム血症の兆候

手足のしびれや脱力、脈の乱れは、高カリウム血症のサインのことがあります。気になる訴えがあれば、すぐに医師に伝えます。

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除水による血圧低下

急な血圧低下は、意識レベルの低下につながることがあります。あくび、気分不良、冷や汗などの前ぶれがあれば、除水を止めて足を上げ、医師に報告します。

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穿刺針の抜けと出血

返血側の針が抜けても、静脈圧の警報が鳴らないことがあります。穿刺部と回路は、毛布などで隠さず、見える状態にしておきます。

救急カートのチェック項目(一例)

項目 確認すること
AED 電源が入るか、バッテリーと電極パッドの使用期限
バッグバルブマスク 部品がそろっているか、マスクのサイズ、酸素チューブとリザーバー
酸素 ボンベの残量(圧力計)と流量計が使えるか
吸引器 電源と吸引圧、吸引チューブの在庫
背板 決められた場所にあり、すぐに出せるか
薬剤・点滴物品 医師の指示で使う薬剤の数と使用期限、静脈路確保の物品
記録用紙 時刻・処置・薬剤・電気ショックを記録する用紙と筆記用具

点検する頻度や中身は、施設の救急カートの基準に従います。酸素ボンベの残量や使用できる時間の計算は、医療計算問題集の無料サンプルでも練習できます。

急変を想定した訓練のシナリオ例

実際の急変は頻度が少ないからこそ、訓練で体を動かしておくことが大切です。透析室向けの簡単なシナリオの例です。

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設定

午前クールの透析中、開始から2時間後。患者さんが「気分が悪い」と訴えたあと、呼びかけに反応しなくなった。

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確認したい動き

応援の要請と役割の宣言、呼吸と脈の確認、胸骨圧迫の開始、背板の挿入、除水停止と即時返血、AEDの装着、時刻の記録が、それぞれ誰によって何分で行えたか。

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振り返り

物品の場所で迷わなかったか、返血の操作で手が止まらなかったか、残りの患者さんの観察が途切れなかったかを話し合い、手順やカートの配置を見直す。

心肺蘇生をきちんと学びたい人へ

この記事の内容は、日本蘇生協議会の「JRC蘇生ガイドライン2025」をもとにしています。院内の急変対応のマニュアルを見直すときや、BLSの根拠を確かめたいときは、ガイドラインの本を手元に置いておくと安心です。

JRC蘇生ガイドライン2025
ガイドライン

JRC蘇生ガイドライン2025

日本蘇生協議会による、日本の心肺蘇生の指針の2025年版。一次救命処置から二次救命処置まで、根拠とともにまとめられています。

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まとめ

透析中に心停止を疑ったら、応援とAEDを呼び、10秒以内に呼吸と脈を確認して、すぐに胸骨圧迫を始めます。胸骨圧迫は胸の真ん中を約5cm、1分間に100〜120回、中断を最小限にして続け、30:2でバッグバルブマスクによる人工呼吸を行います。CEは並行して除水を止め、即時返血と回路の管理を行い、医師の到着後はアドレナリンの投与などの二次救命処置につなげます。頻度が少ないからこそ、役割分担と物品の場所、装置の返血操作を普段から確認しておくことが、いざというときの力になります。

よくある質問

Q

返血が終わるまで胸骨圧迫を待つべきですか?

待つ必要はありません。胸骨圧迫が最優先です。返血は、胸骨圧迫を続けながら、CEなど別のスタッフが並行して行います。

Q

シャントのある腕で注意することはありますか?

シャント側の腕で血圧を測ったり、新たに点滴の針を刺したりすることは避けます。また、胸骨圧迫や体位の移動で穿刺針が抜けないよう、腕と回路を押さえる人を決めておくと安全です。

Q

AEDを使うとき、透析装置はどうすればいいですか?

解析中と電気ショックの際は、患者さんだけでなく、回路や装置にも誰も触れていないことを確認します。装置や回路の扱いは、施設の手順に従ってください。

Q

透析中の急変で一番多いのは何ですか?

最も多いのは、除水による血圧低下です。多くは除水の停止や下肢挙上などで回復しますが、意識レベルの低下につながることもあるので、前ぶれの症状に早く気づくことが大切です。

参考資料

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