透析液に使う水は、実は治療の質を左右する一番の土台です。1回の治療で100リットルを超える水を使い、しかもその水は消化管を通らず膜を介して直接血液に触れます。今回は、この「水をどう清浄化しているか」を、CEの日常業務の視点も交えて詳しく解説します。
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飲料水の基準と透析用水の基準は、桁違いに厳しさが異なります。透析用水は「血液に直接触れる水」だという前提で管理する必要があります。
なぜ水の管理がそこまで重要なのか
私たちが日常的に飲んでいる水道水にも、微量の塩素や不純物、細菌が含まれています。健康な人であれば消化管や腎臓がこれらを処理してくれますが、透析患者さんの場合、この水は透析膜を介して直接血液側に接する形になります。水に含まれる不純物や細菌の成分(エンドトキシンなど)が血液側に入り込むと、発熱やショックなど深刻な反応を引き起こす可能性があります。そのため、透析用水には飲料水よりもはるかに厳しい水質基準が設けられています。
水処理システムの全体の流れ
水道水から透析用水になるまでには、いくつもの処理工程を経ています。大きく分けると「前処理」「RO(逆浸透)処理」「配管・貯留」の3段階です。
図: 水道水から透析用水になるまでの処理の流れ
前処理:大きなゴミと塩素・硬度成分を取り除く
前処理の段階では、まず砂や鉄分などの大きな不純物をフィルターで除去します。続いて軟水化装置でカルシウム・マグネシウムといった硬度成分を取り除きます(これらの成分はRO膜を傷つけたり、スケール(水垢のような沈着物)として詰まりの原因になるため、事前に減らしておく必要があります)。さらに活性炭フィルターで、水道水に含まれる塩素を除去します。塩素はRO膜そのものを劣化させてしまうため、この工程を飛ばすことはできません。
RO(逆浸透)処理:最後の関門
前処理を終えた水は、RO(逆浸透)装置に送られます。RO膜は非常に微細な孔を持つ膜で、水分子はほぼそのまま通過させながら、イオン・細菌・エンドトキシンといった不純物のほとんどをブロックします。浸透圧に逆らって高い圧力をかけることで、通常なら水が薄い方から濃い方へ移動する「浸透」を逆転させ、純水側だけを取り出す、というのがROの名前の由来です。
図: RO膜が水分子だけを通過させ、不純物をブロックするイメージ
水質はどうやって管理・確認しているか
透析用水・透析液の水質基準として、生菌数やエンドトキシン濃度に関する基準値が定められています。CEはこの基準を満たしているかを、定期的な水質検査(培養検査、エンドトキシン試験など)で確認します。また、配管内で細菌が繁殖しないよう、定期的な消毒(過酢酸や次亜塩素酸系薬剤を使った配管の洗浄)も欠かせない業務です。
配管内の「生物膜(バイオフィルム)」という敵
水処理システムにとって厄介なのが、配管内壁に付着する生物膜(バイオフィルム)です。一度形成されると消毒剤が浸透しにくくなり、細菌の温床になってしまいます。これを防ぐために、配管は極力デッドスペース(水が滞留する部分)を作らない設計にし、定期的な消毒サイクルを徹底することが重要です。
現場から見た実感
水処理は普段あまり注目されない業務ですが、水質検査の数値が基準からわずかにずれた時の緊張感は、他のどの業務にも似ていません。配管のどこかに問題があるサインなので、消毒スケジュールや装置の稼働状況を一つずつ洗い出していく必要があります。地味だけど、透析の安全性の最終防衛線だと思っている業務です。
停電・災害時のリスクにも直結する
水処理システムは電力に依存しているため、停電時にはRO水の供給自体が止まってしまいます。災害対策として、貯水タンクの確保や、断水時の対応手順を施設ごとに整備しておくことも、CEの業務範囲に含まれます。透析は「水がなければ治療自体が止まる」という特性を持つため、水処理の安定運用は事業継続計画(BCP)の観点でも重要なテーマです。
RO(逆浸透)処理
生菌数・エンドトキシン基準
配管の消毒サイクル
バイオフィルム対策
水処理装置の構成をもう少し詳しく
透析室の水処理装置は、いくつもの装置が直列につながってできています。それぞれが何を取り除いているのかを知っておくと、始業点検やトラブル時の原因の切り分けがしやすくなります。
| 装置 | 主な役割 | 管理のポイント |
|---|---|---|
| プレフィルタ | 砂・さびなどの粒子を取り除く | 目詰まりで圧力差が大きくなったら交換 |
| 軟水化装置 | イオン交換樹脂でカルシウム・マグネシウム(硬度成分)を除去 | 樹脂の再生用の塩の補充、硬度の確認 |
| 活性炭ろ過装置 | 残留塩素・クロラミンや有機物を吸着除去 | 残留塩素の測定。塩素が残ると溶血の原因になる |
| RO(逆浸透)装置 | イオン・細菌・エンドトキシンなどの大部分を除去 | RO水の導電率(電気の通しやすさ)で性能を確認 |
| RO水タンク・配管 | 透析用水をためて各装置へ送る | 定期的な消毒でバイオフィルムの発生を防ぐ |
| 透析液供給装置 | 透析用水と濃縮液(A剤・B剤)を混ぜて透析液を作る | 透析液の濃度(導電率)と温度の確認 |
透析用水・透析液の水質基準
日本透析医学会は、透析用水と透析液の清浄度について数値の基準を定めています。代表的なものは次のとおりです。
| 区分 | 生菌数 | エンドトキシン |
|---|---|---|
| 透析用水 | 100CFU/mL未満 | 0.050EU/mL未満 |
| 標準透析液 | 100CFU/mL未満 | 0.050EU/mL未満 |
| 超純粋透析液 | 0.1CFU/mL未満 | 0.001EU/mL未満 |
オンラインHDFのように、透析液の一部を置換液として直接血液に入れる治療では、さらに厳しい清浄度の管理が求められます。透析液を清浄にすることは、長期的な炎症や合併症を減らすことにもつながると考えられています。
始業点検で確認していること
残留塩素
活性炭を通った後の水に塩素が残っていないかを測定します。塩素は赤血球を壊す(溶血)原因になるため、毎日の確認が欠かせません。
硬度
軟水化装置がきちんと働き、カルシウムやマグネシウムが除去されているかを確認します。
RO水の導電率と装置の圧力
RO水の導電率が上がっていれば、RO膜の性能低下を疑います。各フィルタの前後の圧力も、目詰まりの目安になります。
透析液の濃度と温度
作られた透析液の濃度(導電率)と温度が設定どおりかを確認します。濃度の異常は、溶血や血圧の変動など重大な事故につながります。
現場から見た実感
水処理の点検は、毎日同じ数字を確認する地味な作業です。でも、その「いつもと同じ」を確認し続けることが、何十人もの患者さんの安全を守っていると感じています。新人の頃は数値の意味が分からず記録するだけでしたが、装置ごとの役割を理解してからは、数字の小さな変化にも気づけるようになりました。
透析装置が監視している項目と、警報の原因・対応は透析装置(コンソール)のしくみと警報対応でまとめています。
まとめ
透析用水は、前処理とRO(逆浸透)処理という2段階のプロセスを経て、飲料水よりもはるかに厳しい基準を満たす水として作られています。この水質管理は、治療の安全性を支える最も基礎的な土台であり、CEの日常点検・水質検査・配管消毒といった地味な業務の積み重ねによって成り立っています。次はこの透析液を血液へつなぐ「シャント」について解説します。
よくある質問
水質検査はどのくらいの頻度で行いますか?
施設によりますが、生菌数やエンドトキシンの検査は月1回程度、より簡易的なチェック(残留塩素の確認など)は治療日ごとに行うのが一般的です。
RO水は飲んでも問題ないですか?
RO水自体は不純物が除去された純水ですが、飲用として管理・提供されているものではないため、施設の設備をそのまま飲用に使うことは想定されていません。
水処理の知識は国家試験にどの程度出ますか?
頻出分野です。前処理・RO処理の仕組みや、水質基準に関する数値は繰り返し問われるため、現場に出てからも継続して押さえておく価値があります。


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