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電気メスは、手術室で毎日のように使われる「切る」と「止血する」を同時にこなせる医療機器です。便利な一方で、対極板の貼り方を誤ると熱傷を、アルコールや酸素の近くで使うと火災を起こすおそれがあります。臨床工学技士の目線で、電気メスのしくみ、切開と凝固のちがい、モノポーラとバイポーラ、安全に使うためのポイント、そして点検・メンテナンスの内容までをまとめました。
- 輸液ポンプ・シリンジポンプ
- 除細動器・AED
- 心電図の基本と危険な波形
- 電気メス(この記事)
- 麻酔器
- 人工呼吸器
- 電気メスは高周波電流を使うので、感電のような筋肉のけいれんを起こさずに組織を加熱できる
- 切開は連続した波で組織を一気に気化、凝固は休みのある波で組織を乾燥・変性させて止血
- モノポーラは対極板が必要。はがれや貼る場所のまちがいは熱傷の原因になる
- アルコール消毒液や高濃度の酸素の近くでは引火に注意
電気メスのしくみ
電気メス(正式には電気手術器)は、本体で数百kHz〜数MHzの高周波電流を作り、細いメス先から体に流します。電流が集中するメス先の部分で、組織の抵抗によって熱(ジュール熱)が生まれ、その熱で組織を切ったり、血を止めたりします。
家庭用のコンセントの電気(50/60Hz)のような低い周波数の電流は、神経や筋肉を刺激して感電やけいれんを起こします。周波数を十分に高くすると、神経や筋肉が反応しにくくなるため、体に電流を流しても感電を起こさずに、熱だけを利用できるのです。
モノポーラとバイポーラ

| 項目 | モノポーラ(単極) | バイポーラ(双極) |
|---|---|---|
| 電流の流れ | メス先 → 患者さんの体 → 対極板 → 本体 | ピンセットの2つの先の間だけ |
| 対極板 | 必要 | 不要 |
| 得意なこと | 切開と広い範囲の止血 | 細かい部分の止血(脳神経外科・形成外科など) |
| 注意点 | 対極板の熱傷、体の中を流れる電流による影響 | 出力が小さめで、切開には向かないものが多い |
ペースメーカや植込み型除細動器(ICD)を入れている患者さんでは、体の中を流れる電流の影響を受けにくいバイポーラが勧められることがあります。使用前に、植込み機器の設定変更が必要かどうかを医師・臨床工学技士で確認します。
切開と凝固のちがい(出力の種類)

| モード | 波形のイメージ | 組織への作用 |
|---|---|---|
| 切開(カット) | 途切れない連続した波 | 細胞の中の水分が一気に沸騰・気化し、組織が切れる。止血の力は弱い |
| ブレンド | ときどき休みが入る波 | 切開しながら、ある程度の止血もできる |
| 凝固(コアグレーション) | 休みが長く、瞬間的な電圧が高い波 | 組織がゆっくり加熱されて乾燥し、たんぱく質が固まって止血される |
凝固のいろいろな方法
- 接触凝固(フォーセット凝固など):メス先や、血管をつまんだ鉗子にメス先を当てて凝固する
- スプレー凝固(フルグレーション):組織に触れずに、火花(放電)を飛ばして広い範囲の表面を凝固する
- ソフト凝固:低い電圧でじっくり加熱し、組織が焦げつきにくいようにして凝固する
名前や細かい設定はメーカーごとに違います。自分の施設の機種で、どのモードがどの用途向きかを確認しておきましょう。
対極板の正しい貼り方
モノポーラでは、メス先から入った電流を、面積の大きい対極板で広く回収します。対極板の一部がはがれて接触面積が小さくなると、そこに電流が集中して、対極板の下で熱傷が起こります。
筋肉が多く、平らな部位に貼る
大腿部・上腕部・殿部などが選ばれます。手術部位にできるだけ近く、電流の通り道に植込み機器や金属が入らない位置を選びます。
避けたい部位
骨の出っ張り、傷あと、体毛の多い部位、金属のインプラントの真上、体液や消毒液でぬれる部位は避けます。
全面をしっかり密着させる
しわや浮きがないように貼ります。体位を変えたあとや、長い手術の途中にも、はがれていないか確認します。
対極板モニタを活用する
2つに分かれた対極板と、接触状態を監視する機能の組み合わせで、はがれかけたときに警報が鳴り、出力が止まる機種が多くあります。
そのほかの安全上の注意
| リスク | 起こり方 | 予防のポイント |
|---|---|---|
| 引火・火災 | アルコールを含む消毒液が乾く前、高濃度の酸素や亜酸化窒素がある場所、腸の中のガスなどに火花が引火する | 消毒液を十分に乾かす。ドレープの下に酸素がたまらないようにする |
| 分流による熱傷 | 患者さんの体が金属の手術台などに触れていると、そこから電流が抜けて熱傷になる | 体が金属部分に直接触れないようにする |
| 心電図電極の部分の熱傷 | 小さな電極に電流が流れ込み、電流が集中する | 電流の通り道(メス先と対極板の間)から電極を離す |
| 植込み機器への影響 | ペースメーカやICDが誤作動する | 事前に確認し、必要ならバイポーラの使用や機器の設定変更を行う |
| サージカルスモーク | 組織を焼いたときの煙を吸い込む | 排煙装置を使う |
| メス先による熱傷 | 使い終わったメス先を患者さんの上に置いたままにする | メス先は専用のホルダーに戻す |
点検とメンテナンス
電気メスは出力が大きい機器なので、臨床工学技士による定期的な点検が欠かせません。
使用前(始業)点検の例
- 本体・電源コード・メス先コード・フットスイッチに傷や断線がないか
- 電源を入れたときのセルフチェックが正常に終わるか
- 対極板モニタが働くか(対極板をつながないと警報が出るか)
- 出力の設定値と、作動中の音・表示が正常か。警報音の音量が小さすぎないか
定期点検の例
- 出力の測定:電気メスアナライザを使い、決められた負荷抵抗で、各モードの出力が設定どおり出ているかを確認する
- 高周波の漏れ電流:意図しない経路に流れる高周波電流が基準の範囲内か
- 電気的安全性:接地漏れ電流などの漏れ電流や、保護接地の状態の確認
- 対極板モニタ・警報の動作確認、フットスイッチ・ハンドスイッチの動作確認
電気メスの安全基準は、日本産業規格のJIS T 0601-2-2(電気手術器の個別規格)などで定められています。点検の項目と頻度は、メーカーの推奨と施設の保守点検計画に従います。
現場から見た実感
電気メスのトラブルは、出力の設定よりも、対極板の貼り方や、体位変換のあとのはがれから起こることが多いと感じます。手術の前だけでなく、体位を変えたあとにも対極板を確認する、という一手間が、熱傷を防ぐいちばんの近道です。
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確認問題
記事の内容をふり返るための確認問題です。答えを考えてから「解答・解説を見る」を開いてください。
電気メスで高周波電流を使う主な理由はどれ?
- 神経や筋肉を刺激しにくく、感電を起こさずに熱を利用できるから
- 電気代が安いから
- 対極板が不要になるから
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正解:1 周波数を高くすると神経・筋肉が反応しにくくなるため、感電を起こさずに熱だけを利用できます。
切開モードの出力の特徴はどれ?
- 休みの長い断続的な波
- 途切れない連続した波
- 直流
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正解:2 切開は連続した波で、細胞内の水分を一気に気化させて切ります。
対極板を貼る部位として適しているのはどれ?
- 骨の出っ張った部分
- 筋肉が多く平らな大腿部
- 金属のインプラントの真上
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正解:2 筋肉が多く平らで、しっかり密着できる部位を選びます。
対極板が不要なのはどれ?
- モノポーラ
- バイポーラ
- どちらも必要
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正解:2 バイポーラはピンセットの2つの先の間だけに電流が流れるため、対極板は不要です。
引火を防ぐための対応として正しいのはどれ?
- アルコールを含む消毒液を十分に乾かしてから使う
- 酸素の流量を増やす
- メス先を患者さんの上に置いておく
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正解:1 消毒液が乾く前に使うと、引火のおそれがあります。
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まとめ
電気メスは、高周波電流の熱で組織を切ったり止血したりする機器です。切開は連続した波、凝固は休みのある波で、目的に合わせてモードを選びます。モノポーラでは対極板の貼り方とはがれが熱傷を防ぐかぎで、アルコールや酸素の近くでは引火に注意が必要です。日々の始業点検と、臨床工学技士による定期点検で、安全に使い続けられる状態を保ちましょう。
参考資料
- JIS T 0601-2-2 医用電気機器―第2-2部:電気手術器及び電気手術器用附属品の基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項
- 各製品の添付文書・取扱説明書(出力モードの名称・点検方法は機種ごとに異なります)


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