※本記事はPRを含みます。
透析中に鳴る「静脈圧上限」「脱血不良」「気泡」「漏血」といった警報。慣れないうちは、鳴るたびにドキッとするものです。警報は、透析装置が「回路や透析液のどこかがいつもと違う」と知らせてくれるサインです。何を監視していて、なぜ鳴るのかが分かれば、落ち着いて原因を探せるようになります。透析室で10年働いてきた臨床工学技士の目線で、透析装置のしくみと、主な警報の原因・対応をまとめました。看護師の方にも分かるように書いています。
- 透析装置は、血液側(血液ポンプ・圧力・気泡)と透析液側(濃度・温度・除水・漏血)の両方を監視している
- 警報が鳴ったらまず患者さんと穿刺部を見る。機械の表示だけで判断しない
- 静脈圧の下限は抜針や回路外れのサイン。ただし、針が抜けても警報が鳴らないことがある
- 警報を消音したまま、設定の幅を広げたままにしない
透析装置(コンソール)の役割
透析装置は、血液回路と透析液の流れを制御し、決められた条件で安全に透析を行うための装置です。日本の透析施設では、透析液を作って各ベッドに送る「多人数用透析液供給装置」と、ベッドごとに置かれた「患者監視装置」を組み合わせる方式が多く使われています。1台で透析液を作るところまで行う「個人用透析装置」もあり、病棟や集中治療室などで使われます。

回路の基本は、透析の基礎知識まとめや透析膜(ダイアライザ)の記事でも解説しています。
透析装置が監視しているもの

| 側 | 監視している項目 | 何のため |
|---|---|---|
| 血液側 | 血液流量(血液ポンプの回転) | 決めた量の血液を体外に循環させる |
| 血液側 | 脱血圧(動脈圧) | 針から十分に血液が引けているか |
| 血液側 | 静脈圧 | 返血側の詰まりや、針・回路の外れがないか |
| 血液側 | 気泡 | 空気が患者さんの体に入らないように |
| 血液側 | 抗凝固薬の注入 | 回路の中で血液が固まらないように(シリンジポンプで注入) |
| 透析液側 | 濃度(導電率)・温度 | 決めた組成・温度の透析液が流れているか |
| 透析液側 | 除水量 | 決めた量の水分を正確に引けているか |
| 透析液側 | 漏血 | ダイアライザの膜が破れて、血液が透析液側に漏れていないか |
| 両方 | 膜間圧力差(TMP) | 膜の詰まりや、除水の負担の目安 |
多くの装置では、血液側の警報が鳴ると血液ポンプが止まり、静脈側のクランプが閉じます。透析液の濃度や温度に異常があると、透析液をダイアライザに流さずに迂回させる(バイパスする)など、患者さんを守る動きが自動で働きます。
主な警報の原因と対応
静脈圧上限
| よくある原因 | 確認・対応 |
|---|---|
| 返血側の回路の折れ曲がり、クランプの閉め忘れ | 回路を穿刺部からたどって確認する |
| 返血側の針先が血管の壁に当たっている、針の位置がずれている | 穿刺部の腫れや痛みを確認。針の向き・深さの調整は施設の手順に従う |
| 静脈チャンバやダイアライザの凝固 | チャンバの液面や、回路・ダイアライザの色の変化を確認 |
| 返血側の血管の狭窄 | 毎回のように上がる場合は、シャントの評価が必要(PTAの記事参照) |
静脈圧下限
| よくある原因 | 確認・対応 |
|---|---|
| 返血側の針の抜け、回路の接続部の外れ | 最優先で穿刺部と接続部を確認する。出血していれば止血と返血の判断 |
| 血液流量の低下(脱血不良の影響) | 脱血側の状態を確認する |
| 静脈チャンバの液面の低下 | 液面の高さを確認し、施設の手順で調整する |
静脈側の針が抜けた場合でも、針や回路そのものの抵抗があるため、静脈圧が大きく下がらず、下限警報が鳴らないことがあります。警報の幅を必要以上に広げない、針と回路をしっかり固定する、穿刺部を布団などで隠さずに見える状態にしておく、といった対策を組み合わせることが大切です。「警報が鳴っていない=大丈夫」ではありません。
脱血圧(動脈圧)下限・脱血不良
| よくある原因 | 確認・対応 |
|---|---|
| 脱血側の針先が血管の壁に当たっている | 穿刺部を確認。腕の向きを変えると改善することもある |
| 血圧の低下 | 血圧を測る。低血圧なら除水を止めるなどの対応を医師・看護師と相談 |
| シャントの狭窄・血流の低下 | シャント音・スリルの変化を確認。続く場合はシャントエコーで評価 |
| 回路の折れ曲がり、クランプの閉め忘れ | 脱血側の回路をたどって確認 |
脱血が悪い状態で血液ポンプを回し続けると、回路の中が強い陰圧になり、接続部から空気を吸い込んだり、溶血を起こしたりすることがあります。血液流量を一時的に下げるなどの対応も、施設の手順に従って行います。
気泡
静脈チャンバ付近の気泡検出器が、血液中の空気を検出したときに鳴ります。血液ポンプが止まり、静脈側のクランプが閉じて、空気が体に入るのを防ぎます。
- 補液ラインや抗凝固薬のラインなど、接続部のゆるみから空気が入っていないか
- 脱血不良で陰圧が強くなり、空気を吸い込んでいないか
- 静脈チャンバの液面が下がっていないか
空気を取り除いてから再開します。気泡検出器の警報を解除して空気を送ることは、絶対にしてはいけません。
漏血
ダイアライザの膜が破れて、血液が透析液側に漏れたことを、排液側の漏血検出器が光で検出したときに鳴ります。
- 排液側の透析液に赤い色がついていないかを目で見る
- 透析液側の気泡などで誤って鳴ることもあるため、施設の手順(潜血の確認など)で確かめる
- 本当に漏血していれば、ダイアライザの交換や透析を続けるかどうかを医師と判断する
透析液の濃度(導電率)・温度
透析液の濃度や温度が設定の範囲から外れると鳴ります。透析液はダイアライザを迂回し、透析は一時的に止まった状態になります。
- 原液(A剤・B剤)のなくなりや、ラインの外れ
- 多人数用供給装置側の異常(複数のベッドで同時に鳴る場合)
濃度の異常は、溶血や電解質の異常など、患者さんに大きな影響を与えます。原因が分からないまま透析を再開しないことが大切です。
膜間圧力差(TMP)上限
- ダイアライザの中で血液が固まりかけている(凝固)
- 時間あたりの除水量が多すぎる
- 抗凝固薬が入っていない、量が足りない(シリンジの外れ・空・開始忘れ)
回路やダイアライザの色が黒っぽくなっていないか、抗凝固薬のシリンジポンプが動いているかを確認します。シリンジポンプの注意点は輸液ポンプとシリンジポンプの記事で解説しています。
警報が鳴ったときの基本の流れ
消音して、まず患者さんと穿刺部を見る
意識・顔色・痛みの訴え、穿刺部の出血や腫れを確認します。機械の表示より先に、患者さんの安全を確かめます。
警報の内容を確認する
どの警報か、数値はいくつか。血液ポンプが止まっていることを意識しておきます(止まっている間に回路内で血液が固まりやすくなります)。
回路をたどって原因を探す
穿刺部から装置まで、血液回路と接続部を順番にたどります。
原因を取り除いてから再開する
原因が分からないとき、何度も鳴るときは、無理に再開せず、先輩・臨床工学技士・医師に相談します。
記録して、次につなげる
警報の内容・原因・対応を記録しておくと、シャントの変化や装置の不調に早く気づけます。
警報の設定で気をつけること
- 静脈圧などの警報の幅:多くの装置は、透析中の値を中心に上下の幅を決めて監視しています。鳴るのが面倒だからと幅を広げすぎると、抜針などの異常を見逃します
- 消音したままにしない:消音には時間制限があるものが多いですが、「消音ボタンを押しただけで対応した気になる」ことが一番危険です
- 警報の音量:音が小さすぎて、他のベッドの警報にまぎれないようにします
使用前点検と終了後の洗浄
| タイミング | 主な内容 |
|---|---|
| 使用前(始業) | 装置の自己診断(セルフチェック)、透析液の濃度と温度の確認、気泡検出器・クランプ・漏血検出器などの動作確認、回路の正しい装着とプライミング、警報の設定 |
| 透析中 | 血液流量・静脈圧・脱血圧・TMP・除水量の経過、回路やダイアライザの色、抗凝固薬の注入 |
| 終了後 | 装置の洗浄・消毒(施設の手順に従い、薬液を使った洗浄や消毒を行う)、外装の清拭、異常の記録 |
| 定期点検 | 臨床工学技士による各センサー・ポンプ・除水の精度の点検、部品の交換 |
現場から見た実感
透析室のトラブルは、患者さんの急変よりも、機械まわりのことの方がずっと多いです。多くはその場で原因を見つけて解消できますが、どうしても解消できないものは、透析を終えて回収してから点検したり、メーカーに修理を依頼したりしていました。警報の意味を一つずつ理解しておくと、「何が起きているか」を落ち着いて考えられるようになります。
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確認問題
記事の内容をふり返るための確認問題です。答えを考えてから「解答・解説を見る」を開いてください。
静脈圧下限の警報が鳴ったとき、最優先で確認することはどれ?
- ダイアライザの色
- 返血側の穿刺部と回路の接続部
- 透析液の温度
解答・解説を見る
正解:2 静脈圧の低下は、返血側の針の抜けや回路の外れのサインのことがあります。出血につながるため最優先で確認します。
静脈側の針が抜けたときについて、正しいのはどれ?
- 必ず静脈圧下限の警報が鳴る
- 針や回路の抵抗で静脈圧が大きく下がらず、警報が鳴らないことがある
- 気泡の警報だけが鳴る
解答・解説を見る
正解:2 警報が鳴らないこともあるため、固定と観察、警報の幅の適切な設定を組み合わせます。
漏血の警報が示しているのはどれ?
- ダイアライザの膜が破れ、血液が透析液側に漏れている可能性
- 穿刺部からの出血
- 透析液の濃度の異常
解答・解説を見る
正解:1 排液側の漏血検出器が、透析液中の血液を光で検出したときに鳴ります。
TMPが上がってきたときに考えられる原因として適切なのはどれ?
- ダイアライザの凝固や、抗凝固薬が入っていないこと
- 血圧の上昇
- 透析液の温度の低下
解答・解説を見る
正解:1 膜の詰まりや凝固、時間あたりの除水量が多すぎることなどでTMPは上がります。
医療機器のしくみや安全管理は、臨床工学技士の国家試験や透析技術認定士の試験でもよく出題されます。当ブログの臨床工学技士国家試験 検索問題集(無料サンプル10問)や透析技術認定士 対策問題集(無料サンプル10問)もあわせてどうぞ。
まとめ
透析装置は、血液側では血液流量・脱血圧・静脈圧・気泡を、透析液側では濃度・温度・除水・漏血を監視しています。警報が鳴ったら、まず患者さんと穿刺部を見て、回路をたどって原因を探し、原因を取り除いてから再開するのが基本です。特に、静脈側の針が抜けても静脈圧の警報が鳴らないことがある点は、必ず覚えておきたいポイントです。
参考資料
- 各透析装置の添付文書・取扱説明書(監視項目・警報の仕様・洗浄消毒の方法は機種ごとに異なります)
- 日本臨床工学技士会・日本透析医学会などの透析関連の安全管理の資料


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