「AIを使った医療機器って、そもそも国のチェックをどうやって通っているの?」透析室で新しい機器の導入検討に関わるたびに聞かれる質問です。今日は薬機法上の「プログラム医療機器(SaMD)」の審査の仕組みを、CEの立場から分かる範囲で整理します。
そもそも臨床工学技士がどんな仕事か気になる方は、先に臨床工学技士とはを読んでおくと内容がつかみやすいと思います。
結論から言うと、AIを使った医療機器も「診断・治療・予防に使うソフトウェアかどうか」で扱いが変わり、該当すれば承認・認証・届出のいずれかの手続きを踏んでから初めて現場に出てきます。つまり、私たちが病院で目にしているAI搭載機器は、すでに一定の審査を通過したものです。ここでは何が審査されているのか、現場の感覚も交えて書いていきます。
「AIだから特別」ではなく、「診断・治療目的のソフトウェアだから審査対象」というのが薬機法の基本的な考え方です。AIかどうかより、何に使うソフトかが判断の軸になります。
SaMD(プログラム医療機器)とは何か
SaMDは Software as a Medical Device の略で、日本の薬機法上は「プログラム医療機器」と呼ばれます。単体のソフトウェアそのものが医療機器として扱われる区分で、スマホアプリや解析ソフト、AIによる画像診断支援ソフトなどが含まれます。
ポイントは、ハードウェア(装置本体)とは別に、中身のプログラムそのものが規制対象になり得るということです。透析関連で言えば、装置の制御ソフトそのものというより、装置から得られるデータを解析して「この患者は◯分後に血圧が下がるリスクが高い」といった予測・支援を行うソフトウェアが、この区分に入ってきます。
画像や検査データから病変の可能性を提示するタイプ。内視鏡・画像診断領域で先行して実用化が進んでいます。
バイタルデータの推移から数分〜数十分後のリスクを予測し、アラートを出すタイプ。透析領域での臨床性能試験も進んでいます。
直接の診断・治療判断は行わず、記録の自動化や効率化を担うタイプ。これは薬機法の対象外になることが多い領域です。
「審査」は一種類ではない — 承認・認証・届出
薬機法上の手続きは、リスクの大きさに応じて主に3段階に分かれています。
診断・治療に直接関わる判断を左右するAIほど「承認」が必要になり、審査主体はPMDA(医薬品医療機器総合機構)になります。PMDAには「プログラム医療機器審査室」という専門の部署があり、通常の医療機器とは別の視点(ソフトウェアのバージョン管理、学習データの妥当性など)で審査が行われています。
現場から見た実感
正直、透析室で機器を使っている側からは「この機能は承認済みなのか、まだ研究段階なのか」を意識する機会はあまりありません。ただメーカーの説明会で「これは承認申請中です」「これは臨床性能試験の段階です」という言葉が出てくるようになったのは、ここ数年ではっきり増えた実感があります。
AI特有の悩みどころ — 「学習して変わり続けるソフト」をどう審査するか
AIを使ったSaMDには、通常の医療機器にはない難しさがあります。市販後にデータを学習して性能が変わっていく可能性がある、という点です。従来の薬機法は「承認を取った時点の性能で固定」が前提だったため、AIが学習で賢くなるたびに再度承認を取り直す必要が出てくると、現場に改良が届くまでのスピードが落ちてしまいます。
この課題に対応するために設けられているのが、変更計画を事前に確認しておく仕組み(通称IDATEN)です。あらかじめ「このAIは今後こういう範囲でアップデートされる可能性がある」という計画をPMDAに確認してもらっておくことで、実際にその範囲内の変更が起きた際は、軽い届出だけで対応できるようになります。フル審査をゼロからやり直さずに、計画された範囲内での改善を早く現場に届けられるようにする仕組みだと理解しています。
学習によって性能が変化する
市販後のデータで再学習するタイプのAIは、承認時点の性能から変わっていく可能性がある。
変更のたびに再審査では現場に届かない
改善のスピードと安全性の担保を両立させる必要がある。
事前に計画を確認しておく方式で対応
想定される変更の範囲をあらかじめ審査側と合意しておき、範囲内なら簡易な手続きで済ませる。
PMDAへの相談窓口も広がっている
プログラム医療機器を開発するメーカー側は、PMDAに事前に相談できる「対面助言」という制度を使えます。プログラム医療機器領域はニーズが多いため、この相談枠が拡充される動きも出てきています。CE個人が直接この窓口を使うことはありませんが、メーカーがこうした相談を経て製品化しているという背景を知っておくと、営業担当者やメーカー資料の説明が理解しやすくなります。
CEとして知っておく実益
審査制度の詳細まで暗記する必要はありませんが、次の視点は現場で役立ちます。
研究段階か製品版かを区別する
AIの判断はあくまで支援、最終判断は医療者
添付文書・取扱説明書で承認範囲を確認する
特に大事なのは、AIによる予測やアラートは「支援」であって「診断そのもの」ではない、という整理を保険適用や添付文書でも徹底されている点です。最終的な治療判断は医療者側にあるという前提は、AIがどれだけ賢くなっても変わりません。この一線を理解しているCEは、新しい機器の説明を受けたときに「これは何を根拠に、どこまで判断していい機能なのか」を自分の言葉でスタッフに説明できるようになります。
「変わり続けるAI」を扱うための制度
AIを使ったプログラム医療機器は、発売した後もデータを追加して性能を改善していくことがあります。そのたびに一から審査を受け直すのは現実的ではないため、国は制度の面でも対応を進めてきました。
| 制度・取り組み | 概要 |
|---|---|
| 変更計画確認手続制度(IDATEN) | 2019年の薬機法改正で導入された制度。あらかじめ承認を受けた「改良の計画」の範囲内であれば、承認後の性能改善を事前の届出などで進められる |
| プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略(DASH for SaMD) | 厚生労働省が2020年に公表した取り組み。相談窓口の一元化や審査体制の整備など、プログラム医療機器の実用化を後押しする |
| 医療機器プログラムの該当性の考え方 | どんなソフトウェアが「医療機器」にあたるのかについて、国が考え方や具体例を示している |
制度の細かな運用は改訂されることがあるため、実務で関わる場合は厚生労働省やPMDAの最新の公表資料を確認するようにしてください。
医療機器にあたるソフト・あたらないソフト
病院で使われるソフトウェアがすべて「医療機器」になるわけではありません。大まかには、病気の診断や治療に直接使われるかどうかが分かれ目になります。
| 医療機器にあたる可能性が高い例 | 医療機器にあたらない可能性が高い例 |
|---|---|
| 画像から病変の候補を示すAI | 予約や受付の管理システム |
| 生体データから疾患のリスクを判定するソフト | 院内の物品・在庫管理システム |
| 治療の条件を個別に計算して提示するソフト | 一般的な健康情報を提供するアプリ |
臨床工学技士が医療機器の管理台帳を作るときにも、「このソフトは医療機器として管理すべきか」を判断する場面が増えていくと考えられます。
まとめ
AIを使った医療機器も、診断・治療目的であれば薬機法上の審査(承認・認証・届出)を経て初めて現場に出てきます。特にAIは市販後も学習で性能が変わりうるため、変更計画を事前に確認しておく仕組みが整えられつつあります。制度の詳細よりも「これは承認済みの機能か、まだ研究段階か」を意識する姿勢が、CEとして機器を安全に使いこなす第一歩になります。
よくある質問
病院で使っているAI機能はすべて承認されたものですか?
製品として販売・使用されている機能は、リスクに応じて承認・認証・届出のいずれかの手続きを経ています。一方で、臨床研究や治験の枠組みで試験的に使われている段階のものも現場には存在するため、メーカーの説明資料で確認するのが確実です。
AIの判断ミスは誰の責任になりますか?
現状の制度では、AIはあくまで医療者の判断を支援する位置づけで、最終的な治療方針の決定と責任は医療者側にあります。添付文書にも「参考情報として利用する」旨の記載があるのが一般的です。
CEがこうした制度を学ぶ必要はありますか?
資格試験に直接出るような知識ではありませんが、メーカーとの打ち合わせや院内の機器導入検討で「これは承認済みか」を聞かれる場面は増えています。概要を知っておくと、導入検討の場で建設的な質問ができるようになります。


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