「AIを取り入れたいけど、何から始めればいいか分からない」という相談を最近よく受けます。大がかりなAI医療機器の導入を待たなくても、CEが今日から個人で使い始められる範囲はたくさんあります。今回は、実際に自分が使ってみて役立った順に紹介します。
そもそも臨床工学技士がどんな仕事か気になる方は、先に臨床工学技士とはを読んでおくと内容がつかみやすいと思います。
先に断っておくと、ここで紹介するのは「病院としての医療機器導入」の話ではなく、「CE個人が業務効率化のためにAIツールを使う」話が中心です。医療機器としてのAI(血圧予測など)は別記事で扱っているので、まずは個人でできる範囲から見ていきます。
いきなり「AIを診療に使う」のではなく、「AIを自分の書類作成・情報整理・学習に使う」ところから始めるのが、現実的で失敗しにくい順番です。
ステップ1: 文章作成の下書きに使う
院内の勉強会資料、マニュアルの下書き、報告書の骨子作成など、ゼロから文章を作る作業にAIチャットを使うのが一番効果を実感しやすい入り口です。もちろん患者情報や個人情報を入力するのはNGですが、「一般的な透析の仕組みを説明する文章の下書きを作って」といった使い方なら、個人情報を扱わずに時短ができます。
現場から見た実感
新人向けマニュアルの構成案を作るときにAIに骨子を出してもらい、そこに自分の実務経験を肉付けしていく使い方が一番しっくりきました。ゼロから箇条書きを考える手間がなくなるだけで、体感の作業時間はかなり短縮されます。
ステップ2: 学会発表・資料のたたき台作りに使う
学会発表のスライド構成や、抄録の言い回しの整理にもAIは向いています。データや結論は自分で確定させた上で、「この結果をどう説明すると伝わりやすいか」の言い回し案を複数出してもらう、という使い方です。最終的な内容の正確性は必ず自分で確認する前提であれば、資料作りの往復回数を減らせます。
ステップ3: 機器トラブルの一次切り分けに使う
エラーコードや異常音などの情報をもとに、「考えられる原因の候補」をAIに挙げてもらい、点検の優先順位をつける参考にする使い方もあります。ただしこれはあくまで「候補出し」であり、実際の原因特定と対応は添付文書・メーカーサポート・自分の経験に基づいて行うべきです。AIの回答を鵜呑みにして操作するのは避けるべき使い方です。
個人情報を含まない一般的な説明文・マニュアル構成の叩き台作りに。
データ・結論は自分で確定させ、伝え方の案出しに使う。
原因候補の洗い出しに使い、最終判断は自分の経験と添付文書で行う。
やってはいけない使い方
個人情報・患者情報をAIチャットに入力することは絶対に避けるべきです。氏名はもちろん、生年月日や具体的な検査値の組み合わせなど、個人が特定されうる情報は入力しないという原則を徹底する必要があります。院内でAIツールの利用ルールが定められている場合は、それに従うのが大前提です。
最終判断は自分で行う
院内ルールを優先する
下書き・叩き台として使う
次のステップ: 医療機器としてのAIを理解する
個人ツールとしての活用に慣れてきたら、次は自施設で導入されている(または検討されている)AI医療機器そのものへの理解を深めるフェーズです。どんなデータを根拠に予測しているのか、承認範囲はどこまでかを理解しておくと、メーカーとの打ち合わせや院内説明の場で一歩踏み込んだ質問ができるようになります。この点は薬機法・SaMDの審査の仕組みの記事で詳しく解説しています。
使うときのルールを決めておく
文章作成などに生成AIを使うときは、個人の工夫だけでなく、職場としてのルールを決めておくことが大切です。医療情報の扱いについては、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」なども参考になります。
| ルールの例 | 理由 |
|---|---|
| 患者さんの氏名・ID・病歴など個人を特定できる情報は入力しない | 外部のサービスに個人情報が送られてしまうため |
| 施設が許可したツールだけを使う | データの保存先や利用規約を施設として確認するため |
| 出力は必ず人が確認してから使う | もっともらしい誤り(事実と違う内容)が含まれることがあるため |
| 医療判断そのものには使わない | 診断や治療方針の判断は医療者の責任で行うため |
プロンプト(指示文)の例
個人情報を含まない業務であれば、次のような指示で下書きを作ると便利です。
「新人臨床工学技士向けに、透析装置の始業点検の目的と手順を説明する勉強会の構成案を、見出し5つで作ってください」
「次の手順書を、新人でも分かるように、1ステップ1文で書き直してください」(個人情報を含まない文面のみ)
「拡散と限外濾過の違いを、例え話を使って説明してください。最後に確認問題を3問つけてください」
AIの説明には誤りが混じることもあるので、勉強に使う場合は教科書やガイドラインで裏付けを取る習慣をつけておきましょう。問題演習には国試の検索問題集(無料10問)も使えます。
職場でAIを使う前に確認したいこと
施設の規程と相談先
生成AIの利用について、施設としてのルールがあるかを確認します。ない場合は、情報システムの担当部署や上司に、使ってよい範囲を相談しておくと安心です。
使ってよいツール
施設が契約しているツールがある場合は、それを使うのが基本です。個人のアカウントで業務の情報を扱うことは、思わぬ情報漏えいにつながることがあります。
入力してよい情報の線引き
患者さんの情報はもちろん、施設の内部の資料や、取引先の情報も、入力してよいかどうかを事前に確認しておきます。
伝わりやすい指示(プロンプト)の書き方
AIへの指示は、次の4つを入れると、思ったとおりの答えが返ってきやすくなります。
| 入れる要素 | 例 |
|---|---|
| 役割 | 「あなたは新人教育を担当する臨床工学技士です」 |
| 目的 | 「新人向けの勉強会で使う資料の構成を考えたい」 |
| 条件 | 「時間は30分、専門用語には説明をつける」 |
| 出力の形 | 「見出し5つと、それぞれの要点を2行で」 |
AIの答えを確かめる習慣
- 数値や基準は原典で確認する:ガイドライン、添付文書、教科書など、元の資料に当たって確かめる
- 「わからない」と言わせる:指示に「確かでない部分は、確かでないと書いてください」と入れておく
- 最終的な判断は人が行う:資料に使う場合も、内容に責任を持つのは自分であることを忘れない
1週間で試すステップ(例)
1〜2日目:身近な文章で試す
個人情報を含まない文章(勉強会の案内文など)を、AIに読みやすく書き直してもらいます。
3〜4日目:資料の骨組みを作る
勉強会の構成案や、マニュアルの目次案を出してもらい、自分の経験で中身を足していきます。
5〜7日目:かかった時間を比べる
AIを使った場合と使わなかった場合で、作業時間がどのくらい変わったかを記録します。効果がわかると、職場で導入を提案するときの材料にもなります。
まとめ
AI活用は「医療機器としての大がかりな導入」を待たなくても、文章作成や資料整理といった個人の業務効率化から始められます。個人情報を入力しない、最終判断は自分で行うという原則さえ守れば、今日からでも取り入れられる範囲は意外と広いです。まずは負担の少ないところから試してみることをおすすめします。
よくある質問
AIツールは病院の許可なく使ってもいいですか?
院内でAIツールの利用に関するルールが定められている場合は、必ずそれに従ってください。ルールが未整備の場合でも、個人情報を含む情報を外部サービスに入力しない、という原則は徹底すべきです。
AIの操作トラブル診断はどこまで信用していいですか?
あくまで「原因候補の一つの参考意見」として扱うべきです。実際の対応は添付文書やメーカーサポート、自分の経験に基づいて判断し、AIの回答だけで機器を操作するのは避けてください。
無料のAIツールでも十分ですか?
文章の下書きや資料構成の壁打ちといった用途であれば、無料版でも十分役立つことが多いです。まずは無料の範囲で試してみて、必要性を感じてから有料版を検討するので問題ありません。
AIに医療の質問をしても大丈夫ですか?
一般的な知識の整理や、勉強のきっかけとして使うのはよいと思います。ただし、AIの答えには誤りが混じることがあるので、診療や機器操作の判断に使うのは避け、必ず教科書やガイドライン、添付文書で確認してください。


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