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輸液ポンプとシリンジポンプは、病棟・ICU・手術室・透析室と、ほぼすべての部署で使われる身近な医療機器です。その一方で、設定ミスやセットのしかた一つで、薬が入りすぎたり、まったく入っていなかったりする事故につながります。臨床工学技士として日ごろ点検や操作説明をしている立場から、2つのポンプのしくみ、アラームの意味、サイフォニングなどの注意点を、看護師の方にも分かるようにまとめました。
- 輸液ポンプ・シリンジポンプ(この記事)
- 除細動器・AED
- 心電図の基本と危険な波形
- 電気メス
- 麻酔器
- 人工呼吸器
- 輸液ポンプは比較的多い量を、シリンジポンプは少ない量を正確に入れるのが得意
- 輸液ポンプは指定の輸液セットを使い、ドアを開ける前にクレンメを閉じる(フリーフロー防止)
- シリンジポンプは押し子とフランジの固定が命。外れているとサイフォニングで一気に薬液が入る
- 閉塞アラームのあとは、閉塞を解除する前に回路内の圧を逃がす(ボーラス注入を防ぐ)
輸液ポンプとシリンジポンプの違い

| 項目 | 輸液ポンプ | シリンジポンプ |
|---|---|---|
| 得意なこと | 輸液バッグから、比較的多い量を一定の速さで送る | シリンジから、少ない量を正確に送る |
| 主な用途 | 維持輸液、抗菌薬、栄養剤など | 昇圧薬、鎮静薬、インスリン、ヘパリンなど、少量でも効果の大きい薬 |
| 送り方 | チューブをしごいて送る(流量制御型)、または滴下数を数えて制御する(滴下制御型) | モーターと送りねじでスライダーを動かし、押し子を押す |
| 使う物品 | そのポンプ専用(指定)の輸液セット | 指定されたメーカー・サイズのシリンジ |
| 流量の正確さ | 輸液セットの状態などで誤差が出ることがある | 一般に輸液ポンプより正確で、低流量向き |
どちらのポンプも「設定した量を正確に入れる」ための機械ですが、正確さは正しい物品を正しくセットしたときにはじめて出ます。添付文書や取扱説明書で指定されている輸液セット・シリンジを使うことが大前提です。
輸液ポンプのしくみと種類
流量制御型(ペリスタルティック方式)
現在の主流は、ポンプの中で複数の「フィンガー」が波打つように順番にチューブを押しつぶし、液を一定量ずつ送り出す方式です。チューブの内径や弾力が流量の正確さに直結するため、そのポンプ用に指定された輸液セットを使う必要があります。
滴下制御型
点滴筒(ドリップチャンバー)に取り付けた滴下センサーで滴の数を数え、設定した滴下数になるように制御する方式です。1滴の大きさは薬液の粘り気や表面張力で変わるため、薬液によっては流量に誤差が出やすいという特徴があります。滴下センサーの付け忘れや、点滴筒の液面の高さにも注意します。
チューブの同じ場所を長時間しごかない
同じ部分のチューブを長い時間しごき続けると、チューブがつぶれたまま戻りにくくなり、流量が少なくなることがあります。添付文書に決められた時間ごとに、チューブの装着位置をずらしたり、セットを交換したりします。
シリンジポンプのしくみ
モーターで送りねじを回し、スライダーを一定の速さで動かして、シリンジの押し子を押す方式です。多くの機種は、シリンジをセットすると外筒の太さからサイズを判別し、設定した流量になるようにスライダーの速さを決めています。そのため、指定外のメーカーのシリンジを使うと、流量がずれることがあります。
開始直後は薬液がすぐに出ないことがある
シリンジをセットした直後は、押し子とスライダーの間や、シリンジ内部にわずかな「遊び」があります。低い流量(例えば1時間に1mL以下)で開始すると、この遊びが詰まるまで、実際には薬液が出ていない時間ができることがあります。昇圧薬などすぐに効いてほしい薬では、開始前に早送り(プライミング)で遊びをなくしておくなど、施設の手順に従って対応します。
サイフォニング現象に注意

サイフォニングとは、シリンジポンプが患者さんより高い位置にあるとき、押し子がスライダーにきちんと固定されていなかったり、シリンジが割れていたりすると、高さの差によって薬液が自然に流れ落ち、一気に注入されてしまう現象です。昇圧薬や鎮静薬などでは、命に関わる過量投与になります。
押し子とフランジの固定を、セットのたびに目で確認する
押し子がスライダーのフックにかかっているか、シリンジのフランジ(つば)がスリットに入っているかを確認します。「カチッ」と入った感触だけに頼らず、目で見て確かめます。
ポンプは患者さんと同じくらいの高さに置く
高さの差が大きいほど、サイフォニングが起きたときの勢いが強くなります。点滴スタンドの高い位置に取り付けるのは避けます。
シリンジの交換・取り外しは、患者さん側を閉じてから
三方活栓やクランプで患者さん側を閉じてからシリンジを外します。外した瞬間の落差による注入や逆流を防げます。
ひび割れ・破損したシリンジは使わない
シリンジが割れていると、押し子を固定していても薬液が漏れたり、空気が入ったりします。
反対に、ポンプが患者さんより低い位置にあると、条件によっては血液がシリンジ側に逆流することがあります。高さをそろえることは、どちらの事故の予防にもなります。
アラームの種類と対応
| アラーム | 主な原因 | 対応のポイント |
|---|---|---|
| 閉塞(下流) | クランプや三方活栓の閉め忘れ、ルートの屈曲、留置針の詰まり | 原因を探す前にポンプを止める。回路内の圧を逃がしてから閉塞を解除する(下記参照) |
| 閉塞(上流) | 輸液バッグ側のクレンメの閉め忘れ、輸液バッグが空(輸液ポンプ) | クレンメ・ルートを確認する |
| 気泡 | 輸液セット内の気泡、輸液バッグが空になりかけ | 気泡を患者さん側へ送らないよう除去する |
| 残量・完了 | 設定した予定量の終了、シリンジが空に近い | 次の薬液の準備。継続が必要な薬は早めに交換の準備 |
| ドア開放・シリンジ外れ | ドアやクランプが確実に閉じていない | セットのしかたを確認し直す |
| バッテリー | 電源コードが抜けている、バッテリーの劣化 | コンセントにつなぐ。移動時のバッテリー残量に注意 |
閉塞アラームが鳴ったときは、ポンプが薬液を押し続けたことで、回路の中に圧がたまっています。この状態でクランプを開けると、たまった分の薬液が一度に患者さんに入ってしまいます(ボーラス注入)。ポンプを止め、患者さん側を閉じたまま回路内の圧を逃がしてから、閉塞の原因を取り除いて再開します。具体的な手順は施設のマニュアルに従ってください。
また、低い流量で使っているときは、閉塞してからアラームが鳴るまでに時間がかかります。アラームが鳴らないから大丈夫、とは考えず、定期的にルートを目で追って確認します。
フリーフローを防ぐ
輸液ポンプのドアを開けたときに、クレンメが開いたままだと、薬液が重力で一気に流れ込むことがあります(フリーフロー)。多くの機種にはフリーフローを防ぐ機構がついていますが、それに頼らず、ドアを開ける前にクレンメを閉じる習慣をつけます。輸液セットを外すときも同じです。
設定ミスを防ぐために
- 流量と予定量の取り違え:「流量 10mL/時」と「予定量 10mL」を逆に入れる、小数点の位置を間違える(1.0と10)などのミスが起こりがちです
- ダブルチェック:ハイリスク薬は、薬剤・流量・予定量・ルートを2人で確認します
- 開始ボタンの押し忘れ:設定したのに開始していない、ということもあります。開始後に流量表示と動作ランプを確認します
- 同じルートに複数のポンプ:1本のルートに複数のポンプや自然滴下をつなぐと、片方の流量の変化がもう片方に影響することがあります
臨床工学技士が行う点検
多くの病院では、輸液ポンプ・シリンジポンプを臨床工学技士が中央管理し、貸し出しと返却のたびに点検しています。
| 点検 | 主な内容 |
|---|---|
| 使用前(始業)点検 | 外観の破損、電源・バッテリー、セルフチェック、ドアやクランプの動作、アラームの音 |
| 使用後(返却時)点検 | 汚れ・薬液の付着の清掃と消毒、破損の有無、次に使える状態か |
| 定期点検 | 流量の正確さの測定、閉塞アラームが働く圧の確認、気泡検出の確認、バッテリーの状態、電気的安全性 |
使っている途中で「流量がおかしい」「落とした」「水がかかった」などがあれば、自己判断で使い続けずに臨床工学技士へ連絡してください。
現場から見た実感
ポンプの事故の多くは、機械の故障よりも、セットのしかたや設定の取り違えから起こります。点検で「異常なし」になったポンプでも、押し子が外れていればサイフォニングは起こります。機械を信じすぎず、「始める前に目で確かめる」ことが、いちばんの安全対策だと感じています。
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確認問題
記事の内容をふり返るための確認問題です。答えを考えてから「解答・解説を見る」を開いてください。
少量の昇圧薬を正確に投与したいときに、より適しているのはどれ?
- 輸液ポンプ(滴下制御型)
- シリンジポンプ
- 自然滴下
解答・解説を見る
正解:2 シリンジポンプは押し子を一定の速さで押すため、少ない量を正確に投与するのに向いています。
サイフォニングが起こりやすい状況はどれ?
- ポンプが患者さんより高い位置にあり、押し子がスライダーから外れている
- ポンプが患者さんと同じ高さにあり、押し子が固定されている
- 輸液ポンプのクレンメを閉じてからドアを開けた
解答・解説を見る
正解:1 高さの差があり、押し子が固定されていないと、薬液が自然に流れ落ちて一気に注入されることがあります。
閉塞アラームが鳴ったときの対応として正しいのはどれ?
- すぐにクランプを開けて流れを再開する
- ポンプを止め、回路内の圧を逃がしてから閉塞を解除する
- アラームを消音して様子を見る
解答・解説を見る
正解:2 たまった圧をそのまま開放すると、薬液が一度に入るボーラス注入が起こります。
滴下制御型の輸液ポンプで流量に誤差が出やすい理由はどれ?
- 1滴の大きさが薬液の性質で変わるから
- チューブをしごかないから
- バッテリーで動くから
解答・解説を見る
正解:1 粘り気や表面張力によって1滴の量が変わるため、滴の数で制御する方式は誤差が出やすくなります。
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まとめ
輸液ポンプは比較的多い量を、シリンジポンプは少ない量を正確に送るための機器です。どちらも、指定の物品を正しくセットしてはじめて正確に動きます。輸液ポンプはドアを開ける前にクレンメを閉じること、シリンジポンプは押し子とフランジの固定と高さに注意すること、閉塞アラームのあとは圧を逃がしてから解除すること。この3つを習慣にするだけで、多くの事故は防げます。
参考資料
- 各製品の添付文書・取扱説明書(指定の輸液セット・シリンジ、点検方法、警報の仕様は機種ごとに異なります)
- PMDA医療安全情報(輸液ポンプ・シリンジポンプの取扱い時の注意について)


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